絵で見るハリー・ポッター日本語版誤訳・珍訳

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ベストセラーファンタジー「ハリー・ポッターシリーズ」の日本語版
これは非常に誤訳・珍訳の目立つ翻訳本です。
その中でもあまりにひどいと思われるものをピックアップして、原書のイメージと日本語版のイメージを描き比べてみました。
絵は管理人のキャラクターイメージに過ぎないので、他の読者さんとはイメージが異なる場合があります。ご了承ください。
まだ増えるかもしれません。
ネタバレ必至!ご注意を!

さらに詳しく考察を知りたい方は下の参考サイトをどうぞ。
参考:ここがヘンだよハリー・ポッター日本語版(誤訳珍訳まとめサイトの入り口サイトです)


当サイトは、著作物の批評と研究を目的としているため、内容には著作物からの引用と原書の試訳を含みます。
引用文の一部の文字色の変更はサイト管理人に寄るものです。
試訳はあくまで例の一つですので、これが正解というわけではありません。
更新履歴

2009年
01/09…改訂ページ公開
01/03…仮ページ公開
■第1巻 ハリー・ポッターと賢者の石
■第2巻 ハリー・ポッターと秘密の部屋
■第3巻 ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
■第4巻 ハリー・ポッターと炎のゴブレット
■第5巻 ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団
■第6巻 ハリー・ポッターと謎のプリンス
■第7巻 ハリー・ポッターと死の秘宝

■おまけ








第1巻 ハリー・ポッターと賢者の石


スネイプの一人称と声 1巻第8章 日本語版:p.202の初授業からずっと
ハリポタ日本語版の問題点として、まず大きく語られるのがキャラクターへの無意味な脚色。翻訳者が勝手に抱いた、原書から読み取れさえしないイメージを押しつけてくるかのような文章によって、読者は原書と全く違ったイメージを構成させられてしまう。スネイプもそんなキャラクター改悪脚色の被害者の一人。
スネイプの一人称

原書の文章

英語は男であろうが女であろうが子供であろうが大人であろうが老人であろうが一人称はどれも"I"

本来はこう訳すべき
スネイプのイメージだったら「」だろう
スネイプの声

原書の文章
1.(1巻8章 p.101)‘Ah, yes,’he said softly,
2.(2巻5章 p.62) ‘So,’ he said softly,
3.(4巻18章 p.263) ‘Let's see,’he said, in the silkiest voice.

本来はこう訳すべき
1.「ああ、さよう」彼は柔らかに言った。
2. 「なるほど」スネイプは静かに言った。
3. 「そうだな…」彼はこの上もなくもの柔らかい声で言った。
ダークな雰囲気のキャラだが、「俺」タイプではないスネイプには「私」が一番ぴったりだろう。


声について。
1. は初めての魔法薬学の授業で出席をとり、ハリーの名を読み上げる際の台詞。softly は「柔らかく」、「静かに」、「優しく」、「寛大に」といった意味の副詞。
2. は新学期にハリーとロンが空飛ぶ車でホグワーツに到着し、暴れ柳に被害を浴びせたことを咎めるシーンの台詞。 1. と同じく、 softly を使うことによって、嵐の前の静けさを思わせる。この後、スネイプは二人に怒鳴る。
3. はハーマイオニーを傷つけた物言いに、ハリーとロンが同時にスネイプを罵った直後の台詞。 silky は「(態度・声などが)もの柔らかな」といった意味の形容詞。この後、スネイプは容赦なくグリフィンドールを減点し、二人に居残り罰を与える。

スネイプは最初から怒りを爆発させ、がみがみというようなしかり方をするタイプではないようだ。あえて静かに、もの柔らかな態度で嫌味っぽく責める。そこで逆鱗に触れると怒鳴る、といったパターンが多い。
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!
スネイプの一人称
我輩
スネイプの声
1.(8巻 p.202)「ああ、さよう」猫撫で声だ。
2.(2巻 p115) 「なるほど」スネイプは猫撫で声を出した。
3.(4巻18章上 p.464) 「さよう」スネイプが最高の猫撫で声で言った。
現実世界に「我輩」なんて一人称をまともにつかう人物がいるだろうか。舞台は90年代英国だというのに。
「我輩」という一人称をつかうのは、ポピュラーなもので「コロ助」、「デーモン小暮閣下」、「ケロロ軍曹」など、どれもスネイプのキャラにかすりもしない。
翻訳者が勝手にこの一人称を脚色づけたため、後のシリアスなシーンではかなり違和感があったり、人を選んで一人称を「私」に変えていたり、大分苦しいことになっている。最終巻の7巻では、この一人称のために、重要な台詞がとても残念なことになった。


「猫撫で声」とは(諸説あるが)「相手をなつかせようとするときの声」という意味。ようするに相手にへつらっているので、学生に横柄なスネイプがそのような声を出すのは違和感がある。

1.2.said softly が「猫撫で声を出す」になるのは無理がある。翻訳者がスネイプを「猫撫で声を出すキャラ」と勝手に脚色づけていると考えられる。

3.a silky voice は「猫撫で声」とたしかに辞書にあるが、このシーンにもスネイプのキャラクターにもそぐわない。 the silkiest voice と、最上級だからといって、「最高の猫撫で声」というのも意味が分からない。
言葉に詰まったときや、考えるときに使う Let's see (「そうですね、ええと…」のニュアンス)を「さよう」と訳しているのもおかしい。これではまるで二人の罵りを受け止めているかのようだ。

「我輩」を連発し、やたらと「猫撫で声」を出すので、夏目漱石の「吾輩は猫である」を彷彿してしまいます。





ファングの吠え声 1巻第8章 日本語版:p.207
魔法薬学の授業後、ハグリッドにお茶を誘われていたハリーは、ロンと一緒にハグリッドの家を訪ねる。ドアをノックすると、中からドアを引っ掻く音と、犬(ファング)の吠え声が聞こえてくるシーン。
原書の文章(p.104)
When Harry knocked they heard a frantic scrabbling from inside and several booming barks.

本来はこう訳すべき
ハリーがノックすると中からせわしなくドアを引っかく音がして、犬のほえる声が何度も響き渡った
boom は「(大砲・雷・人の声などが)とどろく」といった意味の動詞。
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

ノックすると、中からメチャクチャに戸を引っ掻く音と、ブーンとうなるようなほえ声が数回聞こえてきた。
boom には、「(ハチなどが)ブーンとうなる」という意味もある。これをこのまま犬に当てはめている。犬はブーンなどと吠えない。

several を数回と訳しているのも気になる。several には少ない感じの「いくつか」と、多い感じの「いくつもの」という意味がある。ハグリッドがこの直後にファングを諫めているので、ファングは何度も吠えているものと思われる。

「メチャクチャ」という言葉も幼稚。せめて「めちゃくちゃ」とひらがなにするだけでも文学的になるのに。ハリポタ日本語版は幼稚なカタカナオノマトペが地の文に大量に含まれているのも特徴だ。

まるでファングがVIPPERみたいです。





スネイプの歩き方 1巻第13章 日本語版:p.328
スネイプが審判をしたクィディッチの試合後。放棄置き場にいるハリーが、フードをかぶり人目を避けながら禁じられた森へ向かう人物をみつける。その人物をスネイプと確信するシーン。
原書の文章(p.165)
He recognized the figure's prowling walk. Snape, (後略)

本来はこう訳すべき
あの足音を忍ばせた歩き方は間違いない。スネイプだ。
prowl は「動物が餌を求めてこそこそうろつく」といった意味の動詞。
prowling walk はそのような歩き方を指している。
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

あのヒョコヒョコ歩きが誰なのかハリーにはわかる。スネイプだ。
prowling walk をどう頑張ってもヒョコヒョコ歩きに訳せるとは思えない。
11章でスネイプが足を負傷したことが発覚しているので、その後遺症で足をひきずっている、という思いこみからこう訳したと見られている。
しかしそのシーンから既に三ヶ月経っている上に、後遺症があるといった記述は一切ない。
優秀な魔法医もいるし、第一、魔法薬学の教授が自分で治療できないとも思えない(実際、11章に自分で治療しているらしきシーンがある)。





ゴキゲンなスネイプ 1巻第16章 日本語版:p.393
スネイプが賢者の石を今夜奪うに違いないと、主人公三人組が玄関ホールで話し合っていると、後ろにいきなりスネイプが現われ、わざとらしく声をかけるシーン。
原書の文章(p.195)
Good afternoon,’ he said smoothly.

本来はこう訳すべき
ごきげんよう、諸君」彼は抑揚なく言った。
smoothly は「なめらかに」、「すらすらと」、「円滑に」、「流暢に」、「口先うまく」、「穏やかに」といった意味の副詞。
こそこそ話し合いをしている怪しい三人組にも、感情や抑揚を込めずに挨拶をしたのとだと思われる。
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

やあ、こんにちは」スネイプがいやに愛想よく挨拶をした。
good afternoon を直訳しすぎてスネイプのキャラクターに全くそぐわない。
smoothly を何故「いやに愛想よく」と訳すのか、わけがわからない。
主語をスネイプに置き換える必要もないのでは。
愛想良く挨拶をするスネイプ、かなり気持ち悪いです。








第3巻 ハリー・ポッターとアズカバンの囚人


ルーピンの髪の色 3巻第5章 日本語版:p.99
ホグワーツ特急のコンパートメントで眠っている男、ルーピンの外見を説明するシーン。
原書の文章
Though he seemed quite young, his light-brown hair was flecked with grey.

本来はこう訳すべき
まだかなり若いのに、ライトブラウンの髪は白髪交じりだ。
light brown は「明るい茶色」、「薄茶色」だが、そのまま「ライトブラウン」でかまわないだろう。
(個人的に、カタカナでも理解できる髪色に無理に和名色をつかうと、天然色ではなく染めた髪の毛のような印象をうけます。)
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

まだかなり若いのに、鳶色の髪は白髪混じりだった。
鳶色はライトブラウンではない。濃い赤褐色。
そして「白髪混じり」ではなく「白髪交じり」が正しい。

また、3巻10章 日本語版P.242で、教室でハリーと二人きりになり、ディメンターについて話しているシーンでは、
原書の文章(p.140)
A ray of wintry sunlight fell across the classroom, illuminating Lupin's grey hairs and the lines on his young face.

本来はこう訳すべき
冬の陽光が教室を横切り、ルーピンの白髪(しらが)とまだ若い顔に刻まれた皺を照らした。

日本語版の文章はこうなっている!
冬の陽光が教室を横切り、ルーピンの白髪(はくはつ)とまだ若い顔に刻まれた皺を照らした。
「しらが」ならまだしも、「はくはつ」ではまるでルーピンの髪の毛すべてが白いようだ。
冬の弱い日差しに、ルーピンのライトブラウンの髪の中でさほど目立たない白髪がきらきらと光っている繊細なイメージだ。髪色が鳶色では、このイメージも全く違ったものになってしまう。





スネイプの唇 3巻第9章 日本語版:p.223
病欠のルーピンの代わりに、スネイプが「闇の魔術に対する防衛術」の授業を受け持った。学生がまだ習っていないという狼人間についての質問をするが、ハーマイオニーしか手を上げない。狼人間と狼の違いをまだ教えていないルーピンを馬鹿にするスネイプに、パーバティが「まだ習っていないと言ったはず」と口答えをする。そこでスネイプが一喝するシーン。
原書の文章(p.129)
‘Silence! ’ snarled Snape.

本来はこう訳すべき
「口を閉じたまえ!」
スネイプが怒鳴った
snarl は「(人が)…にがみがみいう、どなる」といった意味の動詞。じつにシンプルな文章である。
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

だまれ!」スネイプの唇がめくれ上がった
snarl には「(イヌなどが)(…に)歯をむいてうなる」という意味もあるが、「唇がめくれ上がる」はひどすぎる。だいたい、「唇」とは関係のない単語だ。それに、「唇」は「めくり上げる」ものである。これでは唇自体に意志があるようだ。(携帯版では「めくり上げた」に修正されているらしいが、修正する際に何でまたこの文のおかしな点に気づかないのか。)

また、3巻第7章 日本語版p.174で、ネビルを対して軽蔑の表情を浮かべるシーンでは、
原書の文章(p.100)
Snape's lip curled,

本来はこう訳すべき
スネイプの唇が軽蔑の形に歪んだ

日本語版の文章のこうなっている!
スネイプの唇がめくれ上がった
curl one's lip は「唇を歪める」の意。主に軽蔑や馬鹿にする時の表情である。
翻訳者の誤訳かと思いきや、1巻第8章 日本語版p.204では
原書の文章(p.102)
Snape's lips curled into a sneer.(UK版)

本来はこう訳すべき
スネイプは口元を歪めてせせら笑った

日本語版の文章のこうなっている!
スネイプは口元でせせら笑った
とまあ、「口元でせせら笑う」という不思議な日本語だが、わりとまともに訳している。
3巻で curl one's lip を「唇がめくり上がる」と訳してから味を占めたのか、それ以降もこの珍訳を何度か披露するようになるのだ。
「唇をめくり上げる」=「チンパンジーの動作」を思い浮かべてしまう読者多数。








第4巻 ハリー・ポッターと炎のゴブレット


ルシウスの口元 4巻第8章 日本語版:上p.158
クディッチワールドカップの客席で、ハリー一行はマルフォイ一家に出くわす。自身を睨み返すマグル生まれのハーマイオニーに対し、ルシウスが嘲りの表情を浮かべるシーン。
原書の文章(p.92)
Harry knew exactly what was making Mr. Malfoy's lip curl.

本来はこう訳すべき
マルフォイ氏が嘲るように口元をゆがめた理由を、ハリーはよく知っていた。
curl one's lipスネイプの唇参考
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

マルフォイ氏の口元がニヤリとめくれ上がったのはなぜなのか、 ハリーにははっきりわかっていた。
スネイプの唇と全く珍訳をしている。
「口元がニヤリとめくれ上がる」という表現もきつい。
さすがに唇ではなく口周りごとめくれるのはグロすぎて描けませんでした。





ヴォルデモートの口 4巻第33章 日本語版:下p.451
リドルの墓前にて、復活したヴォルデモートがデスイーター達にハリーを紹介しようとするシーン。
原書の文章(p.92)
‘Yes,’ said Voldemort, a grin curling his lipless mouth,(後略)

本来はこう訳すべき
「そう」ヴォルデモートは唇のない口をにやりと歪ませ、(後略)
curl one's lipスネイプの唇参考
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

「そーれ」ヴォルデモートの唇のない口がニヤリとめくれ上がり、(後略)
スネイプの唇と全く同じ珍訳をしている。
日本語版のキャラクターはやたらと「唇がめくり上がる」が、いったいどういう意図があるのだろう…。

「そーれ」にも緊張感がない。ハリーが絶体絶命の状態だというのに、このセリフでは読み手が脱力してしまう。








第5巻 ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団


トンクスの容姿 5巻第13章 日本語版:上p.79
ハリーを迎えにきた闇払い達。その面々を描写しているシーンにて、トンクスの容姿についての文。
原書の文章(p.47)
she had a pale heart-shaped face, dark twinkling eyes, and short spiky hair that was a violent shade of violet.

本来はこう訳すべき
しっかりとした額にふくよかな頬、すらりと通った顎を持つ色白の丸顔だ。瞳はきらきらと黒く輝いている。つんつんと突っ立たせたショートヘアは、強烈な紫色をしていた。
heart-shaped face は馴染みのない言葉だが、「丸顔で、わりとしっかりしたおでこにぷくぷくとした頬、でも顎はほっそり」という、キュート系の顔立ちのことのようだ。
しかし……
日本語版の文章はこうなっている!

色白のハート型の顔、キラキラ光る黒い瞳、髪は短く、強烈な紫で、つんつん突っ立っている。
いくらなんでも heart-shaped face を「ハート型の顔」とは強引すぎる直訳だ。キャラクターの外見の描写は、物語文学において読み手のイメージをふくらませる重要なもの。「ハート型の顔」では、どういった容姿なのか全くわからない。
そして、無理に一文で容姿を説明しようとしているために、読点がやたらと続く読みにくい文となっている。「キラキラ」がカタカナなのに、同じオノマトペの「つんつん」がひらがなである。文章に統一性がないのがよく分かる。
ハート型の顔…ベジータのような額の女性だと思いこんでいた読者多数。こんな誤解をさせるような訳は、いくら直訳だとしても誤訳と変わらないでしょう。

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ハリー・ポッターシリーズからの引用文と試訳のすべての著作権は原作者のJ.K.ローリング氏に、同翻訳からの引用文の著作権は松岡佑子氏と静山社に帰属します。